
長編
登山者の体験
匿名 2015年1月18日
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小屋が見えてもいい頃だけど……」
A君はリュックを下ろしてあたりを見渡した。
この高原には山小屋のほかに、宿泊所もあった。が、A君は一応、懐中電灯やテント、ラジオなど、リュックの中にはいつもと同じように、登山に必要な七つ道具を入れてきていた。
雨が止み、少しもやっていた霧が晴れてみると、目的の山小屋が、目の前の斜面の上の方に見えていた。
ドラム缶風呂も山小屋の脇にあるはずだった。
やった!とA君は思った。
「確か、もう少し下のほうにキャンプ場があったんですが、不純な目的があったから出来るだけドラム缶風呂(山小屋)のそばで1泊するつもりでいたんです。でも、いくらなんでも、風呂のすぐ隣にテントを張るわけにもいかないので、もう少し近づいたあたりに張ろうと思って……」
A君は、山小屋まで15分くらい、とおぼしき岩肌に接する斜面にテントを張った。
テントからは山小屋がけっこう近くに見える場所だった。
時計を見ると、山小屋の夕食までにはまだ時間がある。なにしろ、連日徹夜同然で仕事をこなし、夜行列車の中で少し仮眠を
とったほかはゆっくり休んでもいなかった。A君は寝袋を取り出すと、そのまま泥のように寝入ってしまった。
夕食時には起きて、山小屋で食事をとるつもりだったのだ。
……ガサガサガサ……
どのくらい眠ったのだらう。
A君は、ガサガサガサというテントを揺らす
風のような音で目を覚ました。
気がつくと日にが暮れていて、テントをの中はすでに真っ暗である。
「しまった。食いっぱぐれた!」
飛び起きて、手探りで懐中電灯を点けて腕時計を見ると、もう9時を回っている。
山小屋の夕食の時間はとっくに過ぎている。
あわてて外に出て、山小屋があるはずの方向を眺めてみたが、当然真っ暗で窓の灯火も消えていた。
A君は寝過ごしたばかりに、その日の夕食を自分で作らなければならなくなってしまった。
山小屋に行けば水道があるのだが、歩けば
15分くらいはかかる。
そこまで登っていって水をくんできて、湯を沸かしてインスタントラーメンを作る、という気力が、もうその夜のA君には残っていなかった。
―まぁいいか。このまま眠ったとしても、どうせ朝まで寝ちゃうだろうし。そうすれば空腹も感じずに済むだろう―
A君は懐中電灯を消すと、そのまままた寝袋にもぐり込んだ。ほとんどふて寝である。
ところが…。
……ガサッ、ガサガサガサ……
奇妙な音に、A君はまた目を覚ました。
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- どこの山? 鹿児島のS山で似た体験をしました霊子