父方の祖父が87歳で亡くなった。 生前、色んな人から好かれていたらしい祖父にはたくさんの知人がおり、葬儀にもたくさんの人が訪れた。 中には棺を前に座り込み泣きじゃくる人もいた。 俺は事情があって長いこと祖父の家には行っていなかった為、正直に言ってしまえばそこまで悲しくはなかった。 だが、いつもは厳格な父が遺影を前に涙する姿を見て、少し心が痛んだのは覚えている。 その葬儀の最中、坊さんがお経を読み上げている時に、それは現れた。 祖父の遺影の横、坊さんの左前辺りに、ぼうっと何かが浮き上がってきた。 それは紛れもなく遺影の中の人物…祖父だった。 半透明の祖父は、しばらくじーっと立ったまま参列者のほうを見ていた。 だが、俺以外に祖父の存在に気づいた人はいないようだった。 もちろん坊さんも気づいてない。 やがて祖父は、すーっと背景に溶けるように消えていった。 その後、親戚一同での食事の席で、さり気なく祖父を見たという話をしてみたが、案の定誰も信じてくれなかった。 まあ俺も慣れない葬式で緊張して変なものを見てしまったのだろうと、自分に言い聞かせてその日は終わった。 それから月日が流れ、七回忌の法要が先月行われた。 三回忌の時には何も起こらなかった。 だから今回も何も起こらないだろうと思っていた…なんなら、葬儀の時に見た祖父のことなんてすっかり忘れていたのに。 それはまた現れた。 すうっと背景から溶け出したように現れたそれは、間違いなく祖父だ。 ただ、葬儀の時と変わっている点がいくつかあった。 まず、葬儀の時に現れた祖父は緑色のポロシャツのようなものを着ていた、つまり私服だったのに対し、今回は完全に死装束のような着物を着ている。 そして現れた場所も、前は遺影の横だったのに今回は坊さんの真ん前、つまり、俺達から見て向こう側を向いている坊さんと背中合わせになるように、こちらを向いて立っていたのだ。 祖父はしばらくぼーっと立っていたが、読経が終わる頃にいきなり何かを指差した。 その指差した先にいたのは、祖父の長男…俺から見て伯父にあたる人だった。 そして次の瞬間、伯父はいきなり呻き声を上げてその場に倒れ込んだ。 「うわっ!!救急車!!誰か救急車!!」 誰かがそう叫んだのが聞こえた。 伯父はすぐに病院に運ばれたが、一度も目を覚ますことなく還らぬ人となった。 あれが何だったのか今となってはわからない。 祖父は伯父を迎えに来たのだろうか? それとも伯父の病気を知らせようとしていたのだろうか? 何にせよ霊感皆無の俺だけにそれが見えたのが一番怖い。