まだ新入社員の頃の話し。 先輩と二人である国に出張した。 初の海外出張で緊張していて、前日からあまり眠れなかったと思う。 現地では、先輩の補佐などしながら慣れない仕事にてんやわんやしていた。 初日は疲切ってしまい、現地の方の接待もそこそこに、先輩の許しをもらい一足早くホテルで休ませてもらった。 本当に疲れていたらしく、夕飯も食べずにベッドに横になると直ぐに眠ってしまったらしい。 どのくらい眠っていたのだろうか。 不意に部屋に入る人の気配で目が覚めた。 先輩かな? なんだか酷く慌てているような様子でバタンバタンと足音が荒い。 先輩、酔っ払ってるのかな? そう、思い、接待を一人抜けて休ませて貰っていた後ろめたさからこのまま寝たふりを決め込む事にして、耳だけで先輩の様子を伺う事にした。 先輩は、相変わらずバタンバタンと荒い足音で部屋をウロウロとしている。 カランカランと乱暴にグラスをとると水差しから水を注ぐ音。ゴキュゴクと勢いよく水を飲む音。 先輩酔っ払ってるな相当。 構わず寝たフリをしながら先輩の様子を伺っていると、急に肉を焼いた様ないい匂いがしてきた。 脂の滴る焼肉の匂い。 その匂いを嗅いで、自分が夕飯も食べていない事を思い出し酷く空腹を感じた。 あ、先輩もしかしたら、お土産になんか肉を焼いた様な料理を持ってきてくれたんだな! そんな風に思い、ベッドから飛び起きて先輩の元に向かおうとした。 でも、身体が動かない。 あれ?金縛り?疲れてるんだな俺。 無理矢理身体を起こそうとしても全く動かない。そうこうしているうちに先輩はドタバタと部屋から出て行ってしまった。 「あ!先輩!」 と、咄嗟に声が出て身体が動く様になったが、先輩はもういなかった。 焼肉もテーブルにはなかった。 残念だったけど疲れてたのでまたそのまま寝てしまった。 翌朝、先輩に起こされて昨日の話しをすると、先輩は昨晩は朝方まで呑んでいたから部屋に戻ってないとの事。夢でも見たんだろうと笑われた。 現地の方が朝食をなんでもリクエストしてくれ!ご馳走してくれると言うので、僕は迷わず肉を食べたいとリクエストした。 日本人は魚しか食べないと思っていた、と現地の方に笑われた。 先輩は昨晩の僕が意地汚く焼肉の夢をみたのだと説明すると、現地の方の顔色が険しくなった。 「あなた、その時起きなくてよかった」 その方の話しでは、宿泊しているホテルでは昔火災があり沢山人が死んだらしい。 焼け跡に再建されたホテルだから、部屋に入って来たのはもしかしたら。 しばらく焼肉の匂いが苦手になるトラウマな体験でした。