目が覚めると、あまりに眩しくて目が開けられませんでした。 壁紙も天蓋も寝具も真っ白で、窓から射し込む太陽光が部屋中に反射していました。 雇い主がまだ寝ているというのに、カーテンを開けた家政婦にイラっとしました。 片目を開けて、ベッドサイドテーブルの上に置いてある時計を見ると10時過ぎでした。 太陽光が強くなっているわけです。 上体を起こし、ぼーっと室内を眺めると、家具の上に写真立てが並んでいます。 私たち夫婦の写真ではありません。 夫と不倫相手の女の写真です。 私を追い出そうと、夫が実力行使に出たのです。 私は怒りにまかせて写真立てをめちゃくちゃに倒しました。 そうしているうち、悲しくなってきました。 「キャアッ」 ドアの方から悲鳴がしました。 振り向くと、家政婦の一人が怯えて立ちすくんでいました。 「あなたね、私が寝ているのになんでカーテンを開けるのっ」 と私が叱り始めると、彼女は走って逃げて行きました。 カーテンの事もそう、この態度もそう。夫の私に対する態度に影響され、使用人が私をバカにしているのです。 私はベッドに突っ伏して泣きました。 玄関の方が騒がしくなったので、夫が帰ったのが分かりました。 夫が仕事で成功し、私たち夫婦は古いけれど大きな屋敷に住んでいます。 私は寝室を出て、赤い絨毯の敷いてある廊下を突き当りまで歩きました。 そこから階下の玄関ホールが見渡せます。 夫と運転手、4人の家政婦、そして写真の女がいました。 女は私を見上げて驚いた様子でした。 夫は私が出て行ったものと思い、不倫相手を連れて来たのでしょう。 「なんだ、お前は!なんでいるんだっ!」 夫が私に怒鳴りました。 「出ていけっ!」 凄い形相で私に怒鳴りつけます。 「なんで私が出て行くのっ!出て行くのはその女でしょっ!」 私も大声で言い返しました。 使用人もこちらを見上げてざわついています。 不倫相手の女が出て行くようで、玄関ドアの方へ歩き始めました。怖がっているようです。 更にヒートアップした夫が私に怒鳴り続けています。 私は思い余って、寝室に駆け戻りました。 ほどなくして、夫が寝室に入ってきました。 先ほどと同じく、出ていけ、出て行かないの応酬です。 倒された写真立てを見て、夫は余計に怒ったようでした。 私も怒り心頭で、写真立てを家具の上から床へ、次々と落としました。 その時、いつの間にか夫の後ろに立っていた若い家政婦が「きゃっ」と悲鳴を上げました。 夫は振り返り、彼女に何か言いながら寝室を出て行きました。 私の足元には写真立てと、割れたガラスが散乱していました。 窓から庭を見ると、やはり、門へと向かう夫の車が見えました。 後部座席には、夫とあの女が乗っているに違いありません。 私はベッドに座りました。怒りと悲しさとで、涙を堪えられませんでした。 意外にも3時間ほどで夫が戻って来ました。 警察官二人を連れて、玄関ドアを入って来ました。 二人の警察官は歩きながら、観察するように辺りを見回しています。 夫は私を指し、警察官たちに何か話し、彼らは私に何か話しかけてきました。 彼らの英語が聞き取れません。 普段、夫の話す英語は聞き取れます。 日本人の私にわかりやすいように彼が話してくれるし、私の耳が彼の英語に慣れているからでしょう。 彼らの話す事はさっぱり解りませんでした。 連れ出されそうになったら抵抗しようと考えたのですが、何もされませんでした。 夫が通訳してくれればよさそうなものですが(とはいえ彼は日本語を話せません。聞き取った英語を私の分かりやすい表現で話してくれればいいのです)、彼は戸惑ったような表情をして、視線を私と警察官の顔を往復させていました。何度も何度も。 そして、三人で話しながら、玄関から出て行ってしまいました。 そのまま彼は3週間ほど家に帰りませんでした。 大きなダイニングテーブルの隅の席に食事の用意がしてあります。 いつも、私はその冷めた料理を一人で食べるのです。 味気ない食事です。 テーブルにはクラシカルな燭台がいくつか置いてあるのですが、ロウソクの火は灯っておらず、ダイニングルームの主な照明も点いていません。 壁につけられた小さな電燈の明かりだけの暗い部屋で、私は食事をします。 使用人にとって主人は夫で、なんなら、今後権勢をふるうのは不倫相手だと考えているのかもしれません。 そう考えると腹立たしいです。 私を小馬鹿にしている使用人を叱ってやりたいのですが、もうそんな気力も無くなりつつありました。 誰もあ...