
長編
山でのスナップ写真に
匿名 2021年1月15日
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この写真の不審な箇所であるとは思いもよらなかったのです。
どう見ても、霊どころか、これは明らかに赤い風船が実体としてそこにある、それ以上でもそれ以下でもない写真です。
しかし、前述したように嘘や冗談でこんな写真を私に見せるような母ではありません。
やはり何かこの写真には不審なことがあるのでしょう。
「もしかしてこの風船みたいなの」、私が訊くと「そう、それ」と母は真剣な顔で答えました。
山登りには詳しくない私ですが、それでもこの写真から読み取れる状況としてはおかしな様子であることは解ります。
私は中岡俊哉先生ばりに鑑定を始めました。
まず、写真に写り込んでいるその風船様の物体を鑑定すべく、私はスキャナでデータ化し、パソコンの画像ソフトで拡大鮮明化してみました。
それはどう見ても確かに風船で、しかも口で膨らませるような小さく薄いのではなく、街などで見かける厚手のしっかりした素材のものであると推測できました。
色は真っ赤で、大きさは隣の母の背丈から直径1メートル程、母の腰を中心に浮かんでいます。
質感も風船のそれ、表面には風船を指で触れた際に付着する白い粉状のものまで付いているようにも見えました。
ただ、それが母の身体にどのように接しているのか、またはそこに浮かんで触れているだけなのかは、母が背負っている荷物に隠れていて判りませんでした。
このことから私が出した結論は、これは風船が(理由は不明ながら)そこに存在した、それ以外は考えられない、というものでした。
しかし母は否定します。
そんなものが腰に付いていたりそばにあればすぐに気付くし、間違ってぶら下げて山に登るなんて有り得ない。
誰かのいたずらなんてまして考えられない。山岳会の仲間は皆真面目で、何より命の危険と隣り合わせの山でそんなことはしない…
確かに母の言う通りです。
普通の登山にそんな風船様の物など持って行ったりはしませんし、そんな物を用もなく携行すれば命の危険にさえ晒されます。
登山の器具にそういう形状のものはないのかと確認しましたが「ない」と母は断言するし、私も見たことがありません。
もしかして、滑落時に危険を和らげるために、車で言うところのエアバッグみたいな物があるのかとも思いましたが、山で滑落したらそんなものは役に立たない、と母に一蹴されました。
結局、真相は判らないまま。
その写真は私が預かり、どこかに存在するはずですがだいぶ奥に仕舞い込ん
後日談:
- その後、母には特に何もなく、70歳になる最近まで本格的な登山を続けていました。 今はさすがに本格登山は引退し、近くの手頃な山でハイキングを時折楽しんでいるようです。
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