「なんだ この行列は」僕は思わず声を出してしまった。 今日は父さんと、"鉄道模型展„を見に行ったんだ。 今はその帰り道。駅に向かって歩いていたら、このものすごい行列が遠くに見えた。 「何か新しいゲームソフトでも出るのか、それとも美味しい店でもあるのか」 父さんも首をかしげている。まあ、何にしても暇な人って結構いるもんだな。 「鉄道模型、かっこよかったよね。僕はやっぱ、SLがよかったな」 「父さんは、なんといってもEF66形がよかったよ」 "FF66形„は、「はやぶさ」や「富士」などのブルートレインとして有名だ。 たしかにあのスタイルと力強さはかっこいい。 僕たちは、そんな話をしながら、行列の最後部に近づいていった。 と、僕の手が強い力でぐいっと引っ張られた。 「はい、準備はちゃんと守って。一番後ろに並ばなくちゃダメだよ」 どうやら勘違いされているらしい。僕の手を引っ張ったのは、警備員っぽい人。 そんな感じの制服を着てるのも。 「違います。僕たちは駅へ行くんです」 ところがその警備員は、僕と父さんを強引に列の最後尾に、並べた。 「違いますってば。僕たちは並ぶんじゃないんです。ねえ、父さんもなんか言ってよ」 なのに父さんは、「まあ、いいじゃないか」と言って、ニコニコしてる。 いいわけないじゃないか。 「だってさ、何の行列かわからないのに並んでしょうがないよ。時間がもったいないじゃん」 「そう言うなって。これだけの人が並んでいるんだ。きっと、ものすごくいいモノが待っているに違いない」 父さんって、こんなにのんきだったかなぁ。 仕方ない。何の行列か分かったら、父さんだって帰る気になるだろう。 列はゆっくり、ゆっくりと進む。 「あのう、.........これって何の行列ですか?」 僕はしびれを切らして、前の人にそう聞いてみた。けれどその人は、僕の方をチラッと見ただけで、また前に向き直ってしまった。 「感じわる〜!こっちの人に聞いてみよう」 今度は後ろを振り返る。優しそうなおばあさんがいた。 「この行列って......」 「あら、ぼうやも並んだのね。そうなの。ちゃんと並んでね。いい子ね」 ちぇっ、まるっきり子供扱いだ。僕だってもう四年生なんだぞ。 もう聞く気もならなくなった。 「はいはい、もっとはじによって。危ないから気をつけてくださいよ」 なんだ?警備員さん、列の横にぶっといくさりを張り始めたぞ。 列が曲がらないようにかな。それにちゃ、凄すぎないか、このクサリ。 ゾウやサイじゃないんだから、厳重すぎるだろ。 「ねえ、父さん。このクサリ.............。あれっ?父さん?」 気がつくといつの間にか父さんがいなくなってる。 今の今まで僕の隣にいたはずなのに。 「あの、すみません」 僕は重そうにクサリを持った警備さんに聞いてみた。 「僕の隣にいた男の人。僕の父さんなんですけど、急にいなくなっちゃったんです。知りませんか?」 「さあ、知らないね。きっと"不合格„になったんだろう。よくあることだ」 不合格?一体なんのことだ。と、ふいに列がドドッと動いた。 前にぐんぐん進むようになったんだ。 「ほらね。不合格者の分を前に詰めたら、こんなに進んだだろう?」 そういえば、さっきの感じ悪い人もいなくなった。 その詰めた分、後ろにいたばあさんが僕の隣に並んだ。 「まあ、合格なのね。若いのにえらいわあ」 「あのぅ、何が合格とか不合格なんですか?それに不合格になった人は、どこへ行ったんですか?」 「不合格になった人はね、この世にとどまらなくてはならないのよ。この苦しいことだらけの嫌な世界にね。あっちの世界には選ばれた人だけが行けるの。よかったわね」 それを聞いて、僕の全身が氷ついた。 つまり、合格したっていうことは、あの世に行くってこと.......? その時、行列の向きが変わった。いや、下へ向かって進んでいるんだ。 おかしい。こんなところに地下鉄の駅なんかないはずだし。 行列はなおも進む。そしてついに、行列の前方が視界に入った。 それは地面にぽっかりと開いた、真っ暗な穴だった。 行列はその穴の底に向かって進んでいるんだ。 「いやだ!この列から外してくれ!」 僕がクサリをくぐって横へ出ようとすると、警備員がそれを押しとどめる。 「君も遠慮深い人だねえ。せっかく合格したんだ。喜んで進まなくちゃ。ほら、みんなこんなに嬉しそうにしてるじゃないか」 周りを見回すと、列のみんなが薄笑いを浮かべていた。 まっすぐに前だけ見て。けれどこの人たちには黒目がなかった。 白目だけの目で、まっすぐに前を見て......。 「いやだ、いやだ!助け...