3月19日…この日は私にとって忘れることが出来ない日だ。 私が産まれて初めて大切な人の死を予感してしまった忘れることが出来ない日であるから。 このお話は私が8歳の頃のお話です。 「ばあちゃん、カズ兄ちゃんと遊んでくるね‼」 「おじちゃんやお兄ちゃんの言うこと聞くんだよ。」 「ハーイ!」 学校から帰ると私と兄と二人の弟は宿題を猛スピードで終わらせるとおやつ片手にダッシュで隣の家の親戚宅に遊びに訪ねていた。 祖母の従弟にあたるおじさん一家が住んでいてそこの家の若いお兄さんが私達と遊んでくれた。 「カズ兄ちゃん、遊ぼう‼」 「一緒におやつ食べながら遊ぼう‼」 …カズ兄ちゃんの姿を見付けると私達はかけより口々にはしゃぐ。 「おっ来たな‼よし、今日はサッカーだ‼」 …カズ兄ちゃんは優しくて格好良くて、モテモテだったし友達も多かった。 カズ兄ちゃんの友人であるお兄さんとお姉さん達も私達兄妹を可愛がってくれた。 おやつを一緒に食べたり遊んでくれた。 楽しい時間も母の帰宅と共に終了。 仲良く元気にはしゃぐ私達をおじさんと祖父母はたまに様子を見に来ては微笑んで見ていた。 私が自転車を乗れるようになったのもカズ兄ちゃんのお陰。 今思えば子供の頃のこの時間が幸せだった。 焼き芋をしたりバーベキューをしたり遊んだり花火をしたり…楽しかった。 私達兄妹はカズ兄ちゃんが大好きだった。 しかし…悲しい別れはやって来た。 3月18日…あの日は何時ものように遊んで何時ものように母が帰宅して家に帰る何時もと変わらない光景。 「さっ、お家に入ろうか。カズ兄ちゃんもご飯だよ。栞は明日は病院にお出かけだからちゃんとご飯食べて早く寝ようね?」 母に促された。 「そうだね。ご飯ちゃんと食べて強くならないと悪い虫に負けちゃうよ?」 …何時もと同じカズ兄ちゃんの優しい笑顔。 だけど…何故か帰りたくないと言う気持ちと今帰ったらカズ兄ちゃんと二度と会えなくなるのではないかと言う気持ちとカズ兄ちゃんは二度と会えない世界に行ってしまうのではないかな…と言う漠然とした不安感を感じていた。 その時のカズ兄ちゃんは夕日に照らされていたのか何だかわからないが、カズ兄ちゃんの顔が真っ赤に見えた。 「カズ兄ちゃん、明日も一緒に遊んでくれるよね?どこも行かないよね?」 そう不安げに訪ねる私にカズ兄ちゃんは優しい笑顔で微笑んでくれた。 「大丈夫だよ。明日栞が病院から帰ってきたらまた遊ぼう。約束だからね。絶対だからね。ほら、もうお家入ってご飯食べて寝ないと明日病院に行って疲れてお兄ちゃんと遊べなくなるよ?」 「そうだよ…栞。嫌なら帰ろうね。」 「ハーイ!お兄ちゃんまた明日ね。」 寝るまで私は不安な気持ちが消えなかった。 そして、3月19日の朝が来た。 8時前のバスで私と母は出掛けた。 昨日の私の様子を見て心配してくれた祖父母と父がお小遣いを沢山くれた。 「良かったね。」 「お兄ちゃんやお姉ちゃん達にお土産一杯買えるね。でも、お母さん。また出掛けた時のために遣いたいから2000円だけ預かってくれる?」 「栞は偉いね。じゃあ、お母さんがちゃんと預かるからね。」 と、玄関先でそんな会話をしながらルンルン気分で出掛けた。 家を出て、隣の家の前を通るとカズ兄ちゃんがいた。 「あっ、カズ兄ちゃんおはよう‼お父さんとじいちゃんとばあちゃんがお小遣い一杯くれたよ‼帰ってきたらお菓子食べようね‼」 元気に手を振りながら私はカズ兄ちゃんに言った。 でも、カズ兄ちゃんは悲しい顔で微笑みながら頷くだけだった。 その時、普段は優しい母が厳しい口調で私を促しバス停へ向かった。 「お母さん、お兄ちゃん具合悪いのかな?」 「お仕事だったみたいだから忙しいんだよ。」 その時の私は納得はしたが、今思うと母が何故か険しい顔をしていた。 そして、何処か悲しい顔をしていた。 そんなこんなで病院へ着いて何時もの診察と検査が始まる。 この日は脳波の検査。 脳波の検査をした時は眠る状態で受けるのだが、夢を見たのはこの時が一回だけ。 その一回だけ見た夢は悲しい夢だった。 私は暗い空間にいて、カズ兄ちゃんが私に背中を向けて光りがさす道の方に歩いていく夢だった。 「カズ兄ちゃん、行かないで‼」 私は泣きながら叫ぶとカズ兄ちゃんは振り返り優しい笑顔で微笑んで、バイバイと手を振りながら光りの中に消えていく。 そんな夢だった。 目が覚めたら私は泣いていた。 担当医の先生は優しく笑いながら、涙をふいてくれた。 「怖い夢見たかな?大丈夫だよ。可愛い顔が台無しだよ。お母さん心配しちゃうよ。これ食べてね。」 先生はこっそりと飴をくれた。 私は嬉しくなり、気持ちが落ち着いたので待合室の母の元へ。 会計を終えるために順番を待っていたら、母の携帯がなる。...