これは俺が高校生の時の話。 ある日、友達と二人で地元の道を自転車で走っていた時。 「お、変なビデオ落ちてる」 と、友達が道端に捨てられていたVHSのテープを発見した。 ケースもなく、ラベルも貼っていない無地のビデオテープだった。 1990年代末。このころはまだ町にこういった怪しいビデオテープやエロ本などがよく不法に廃棄されていた。 当然年頃だった俺たち二人は「AVかもしれないから持って帰って見てみようぜ!」となった。 そのまま俺の家に持って帰り、自室のテレビデオ(テレビにビデオデッキが内蔵された機種)に拾ってきたビデオテープを挿入し、巻き戻す。 年頃男子2人はワクワクしながら巻き戻しが終わるのを待っていた。 そして、いざ、再生。 砂嵐が数秒続いた後、画面には画質の荒れた映像が映し出された。 薄暗いどこかの一室。無造作に置かれた椅子と分娩台のような器具が映っていた。 俺たちは顔を見合せた。 「これ、絶対AVじゃね?」 「うん、間違いない」 ノイズ交じりで画の色合いも薄く、画質は非常に悪かったが、思春期ど真ん中の俺たち二人には気にならなかった。やがて画面に裸の男女が現れてからは俺たちは前のめりになった。 「おい、無修正だぜ」 「きた!ビンゴだ!」 テンション上がった俺たち二人は、男女のあられもない姿に興奮する・・はずだった。 「げ・・」 やがて画面を見ていた俺たち二人は思わず目を背けてしまった。 このビデオテープは、AVはAVでもスカトロ系のそれだったのだ。 いくら画質が悪いといっても、無修正で容赦なく流される汚物の映像は当時の俺達にはかなりショッキングで、吐き気を催すものだった。 興奮も一気に冷め、嫌悪感と不快感でいっぱいになった。 ものの、初めて見るスカトロの映像に、若干の好奇心もあり、怖いもの見たさでチラチラと、映像をしばらく見るともなしに見ていた。 画質が悪いので男女の顔もはっきりとは分からない。若いのかそうでないのか、綺麗なのかそうでないのかもわからなかった。音声も入っていなかったので無音でノイズ交じりの中、女は汚物をまき散らし、男はそんな女をさらにいたぶっていた。女は顔を真っ赤にして泣き叫び、助けを乞うているように見えた。そんな女を張り倒し、男は無理やり女の体内に何か液体を注入し、また汚物を吐き出させる・・・ かなり胸糞が悪かった。俺たちは気持ち悪さの中に恐怖も感じ、途中で再生をやめてすぐにテープを取り出した。 「・・・・これ、マジなんじゃねえの?」 「マジの犯罪物ってこと?」 「うん・・・」 俺たちは何かとんでもなくヤバいものを拾ってしまったような気になり、その後すぐにそのテープを元あった場所に捨てに行った。 その夜はあの忌まわしい映像がリフレインして、飯ものどを通らなかった。 夜、いつもの就寝時間を過ぎてもなかなか眠れなかった。 どうしても目を閉じるとあの真っ赤になって泣き叫ぶノイズ交じりの女の顔が浮かんでくる。 男に髪の毛を鷲掴みにされた、苦痛に歪んだ顔。 半分失神したように茫然と汚物をまき散らす顔。 助けを乞うように大きな口を開けて泣き叫ぶ顔。 ・・・ダメだ!眠れない! ベッドの上でもんどりうった俺が、半ばあきらめて目を開けて上体を起こした瞬間だった。 突然バチっという大きな音がして、暗闇の中テレビデオの電源が入った。 「うわ!」 俺は驚いて固まった。 深夜だったので画面には砂嵐が映っていた。 テレビのリモコンはテーブルの上だ。ベッドにいる俺が誤って押すはずがない。 テレビからは砂嵐の「ざーーーーーー」という音が流れていて、それが無性に恐ろしい。 俺は慌てて這うようにしてベッドから上半身を伸ばし、テーブルの上のリモコンに手を伸ばした。 「ねえ、見ないでよ」 だしぬけに耳元で女の声がした。確かに聞こえた。少しかすれた女の声。 途端に全身に悪寒がはしり、俺は声にならない悲鳴を上げてベッドから飛び出し、部屋の電気をつけてテレビを消した。 そこにはいつもと変わらない俺の部屋があるだけで、テレビも静かになっていた。 鼓動が激しく鳴っていた。鳥肌が全身を覆っていた。 その夜は電気をつけたまま、まんじりともせずに朝を迎えることになった。 それ以降、度々俺の部屋では奇妙な現象が起きるようになっていた。 例えば、男友達と二人で俺の部屋で遊んでいたとき、友達が携帯電話で話していた彼女に「さっきから女の声が聞こえる」と言って怒られた、とか。(当然俺たち以外誰もいなかったし、テレビもつけていなかった) 誰もいないはずなのに部屋のドアがノックされたりとか。 俺の部屋は二階だったんだけど、階段を誰かが飛び跳ねるような足音が度々聞こえたり...